掲載号: No. 256〔新製品・新技術紹介〕

半導体製造向け 超小型キャンドモータポンプSSPD型

Super Small Canned Motor Pump Model SSPD for Semiconductor Manufacturing

執筆者

黒沼 隆行
Takayuki KURONUMA

風水力機械カンパニー 標準ポンプ事業部 開発設計部

超小型キャンドモータポンプSSPD型は2013年に開発・市場投入した製品で,近年になってその「超小型」「低熱容量」という特徴から,半導体製造用途として注目を浴び,出荷台数が大きく伸びている。本製品はディスク型扁平PMモータの搭載,キャン材料として特殊耐熱樹脂の使用,羽根車/ロータ一体構造とすることで主軸を取り除いた特殊構造にするなどの多くの特徴を備えている。当社の標準ポンプ事業が有する数々の技術を融合した製品として,キャンドモータポンプSSPD型を紹介する。

Super small canned motor pumps model SSPD were developed and released in 2013. Lately, their ultra-compactness and low heat capacity have been attracting attention because they are effective for semiconductor manufacturing. Thus, the shipment volume has been increasing. This model also has many other features, such as a flat disc-type permanent magnet motor, special heat-resistant resin as a can material, and a structure with no main shaft, which was realized by integrating the impeller and rotor. This paper introduces the super small canned motor pump model SSPD as a product that combines various technologies of the Ebara Standard Pump Business Division.

Keywords: Low heat capacity, Super small, Semiconductor manufacturing, High efficiency, Energy saving, Permanent magnet motor, High speed, Canned motor, Eddy current

1.はじめに

当社は,2013年にキャンドモータポンプSSPD型を開発・市場投入している(図1)。本製品の特長は,永久磁石型同期電動機(以下PMモータ)を採用することによって,超小型を実現していることである。また,従来のキャンドモータにおけるモータ温度上昇の大きな要因の一つであったキャンの発熱を低減できることである。

半導体はPC・スマホ,メモリや,自動運転制御装置向け等に需要が増えており,今後数年間は続くと予想される。

半導体製造において,配線を微細化する技術は年々進歩してきているが,EUV(極端紫外線)リソグラフィ技術の確立が途上のため,レーザの多重露光で微細化に対応している。多重露光により,露光回数が増加した分,エッチング工程も増加する。また,NANDフラッシュメモリ等は,多層化することで大容量化を実現していることもあり,こちらも多くのエッチング装置を必要とする。

半導体製造工場はクリーンルームや付帯設備など多額の設備投資が必要で,敷地は簡単に拡げられない。そのため,エッチング装置を小型化する必要があり,装置内に組み込むチラーユニットは占有面積(フットプリント)を小さくすることが常に求められる。また,ウェーハの温度を処理工程ごとに速くかつ高精度でコントロールすることができれば処理速度(スループット)の向上が可能である。

近年になってSSPD型の「超小型」「低熱容量」の特長から,半導体製造用途として注目を浴び,出荷台数が大きく伸びている。そこで,本稿では,半導体製造用途としてのキャンドモータポンプSSPD型の特長と概要を紹介する。

図1 キャンドモータポンプSSPD型

2.特長

2-1 超小型

半導体製造において,クリーンルーム内に設置する装置のスペースは限られており,フットプリントを小さくすることが常に求められる。そのため,装置に組み込むパーツも小型化の要求が高まっている。

この要求に応えるべく,本製品のポンプ部について,従来機種のフランジ配管からねじ込み配管に変更し,エンドトップ型ケーシングを採用している。また,モータ部についてはPMモータを採用し,かつ高速回転化することで超小型を実現している。従来製品と比較して,体積は約1/60に,質量は約1/10に小型化した(図2)。これによって,本製品を搭載したチラーユニットをエッチング装置に組み込むことができるようになった。

図2 SSPD型と従来品との比較

2-2 低熱容量

半導体製造のエッチング工程等では,スループットを上げるために,ウェーハの温度を最適制御することが求められている。その方法としてポンプで熱媒を循環させる方法があるが,ポンプ自体の熱容量が熱媒温度の変化を遅らせてしまう傾向がある。

その対策として,強力な永久磁石を樹脂でモールドしたディスク型形状のロータと円盤形状のステータで一対の軸受を挟み込むことによって,主軸を取り除いた構造としている。従来製品と比較して,熱容量を約1/10に削減している。

これによって,半導体製造工程で熱媒の温度を急峻に変化させることができ,その結果,ウェーハのスループットの向上に貢献している。

2-3 高効率

本製品では,損失低減策を行うことによって,当社従来製品と比較して,ポンプ総合効率の向上及び消費電力の約45%低減を実現している。

損失低減策には,PMモータの採用による発熱損失の低減,特殊耐熱樹脂の採用による渦電流損失の低減のほか,軸受損失の低減が挙げられる。すべり軸受に動圧浮上型の軸受を採用することで,軸受損失を約100 W低減している。これは消費電力の約10 %低減に相当する。また,定常運転時は摩擦がないため軸受の長寿命化が期待できる。

2-4 認証取得

顧客要求の一つに海外規格への適合があったため,本製品では下記の認証を取得している。

・アメリカ市場用:NRTL認証(UL 778)
・欧州市場用:CEマーク認証(EN 809/EN 12100)

またRoHS指令に準じて製品の化学物質含有量を管理している。

3.製品概要

3-1 製品仕様

キャンドモータポンプSSPD型の製品仕様を表に示す。取扱液は半導体製造用途としてフッ素系不活性液体に特化している。フッ素系不活性液体は,優れた電気絶縁性と熱特性があり,また,高温,低温を問わずほとんどの溶剤に溶解しないなどの特徴がある。そのため,電子機器の冷却に適している。

インバータにて駆動するため,性能は50 Hz,60 Hz共用である。

表 仕様一覧
機種 SSPD型
取扱液 フッ素系不活性液体
-20 ℃~90 ℃
最高使用圧力 1 MPa
流量範囲 10~60 L/min
構造 羽根車 クローズド
ケーシング エンドトップ型
軸受 すべり軸受(モータ内)
接続 Rc 3/4
吸込×吐出し:めねじ
材料 羽根車 特殊耐熱樹脂
ケーシング SCS14
モータフレーム 特殊耐熱樹脂
電動機 形式 永久磁石型同期電動機
相/極 三相/8極
最高回転速度 6000 min-1
出力 1.1 kW
設置場所 屋内,周囲温度0~40 ℃
騒音 56 dB(A)
規格対応 NRTL,CE,RoHS

3-2 構造

構造を図3に示す。本製品にはメカニカルシール等の軸封はなく,PMモータとポンプを一体としたキャンド構造のPMモータポンプになっている。その他,次のような特徴がある。

・ディスク型扁平PMモータを搭載
・ステータキャン材料,ロータキャン材料に特殊耐熱樹脂を使用
・羽根車/ロータ一体構造とすることで主軸を取り除いた構造
・スラスト,ラジアル一体型のすべり軸受を採用
・キャンドモータのため軸シールがなく,無漏洩,無発塵
・モータ冷却ファンがないため低騒音化を実現

図3 構造図

3-3 インバータと制御

本ポンプはPMモータをインバータで駆動・制御する。インバータはPMモータに適合する市販の製品を利用することができる。図4は本ポンプ,インバータの結線の一例を示す。

当社の標準ポンプは設備機器として利用されることが多かったが,このPMキャンドモータポンプは,半導体製造装置をはじめとするFA装置への搭載にも適した仕様である。

図4 インバータ結線図

※CC-Linkは三菱電機㈱の登録商標です。
※DeviceNetはODVAの商標です。

4.おわりに

本稿にて紹介したSSPD型は,市場要求に応えるべく,当社の独自技術によって「超小型」「低熱容量」を実現した製品である。本ポンプはすでに市場から高評価を得ており,温度範囲や高揚程域への範囲拡大の要求も多い。今後も,市場要求に適応した製品群の拡大に取り組む所存である。

エバラ時報のおすすめ記事

エバラ時報に掲載の記事に関する不明点やご相談は、下記窓口よりお問い合わせください。