山内 貴弘* Takahiro YAMAUCHI
張 志宝* Zhibao ZHANG
王 正兵* Zhengbing WANG
趙 炳来* Binglai ZHAO
張 文淵* Wenyuan ZHANG
常 健杰* Jianjie CHANG
*
青島荏原環境設備有限公司
近年,中国国内の固形廃棄物の発生量は増加傾向にあるとともに,その適正処理に対する規制は強化されている。本稿では,中国国内の固形廃棄物処理における市場要求に適応した施設規模の大型化や,現地のごみ質特性に応じた固形廃棄物の安定処理,エネルギー回収に関する技術改良について報告する。
In recent years, the amount of solid waste generated in China has been on the increase, and so controls of appropriate treatment for solid waste have been tightened. Here, we report on the upsizing of facilities in response to market demand for solid waste treatment in China, the stable treatment of solid waste according to the quality and characteristics of local waste, and the improvement of energy recovery technology.
Keywords: China, Municipal solid waste, Waste incinerator, Grate-type incineration system, Fluidized-bed incineration system, Combustion control
現在,中国国内における固形廃棄物発生量は約600000 t/d以上,そのうちの約半分が,約300の施設で焼却発電処理されていると言われている。また,1炉当たりの焼却処理能力は2010年前後では約300~400 t/d・炉であったが,近年では600 t/d・炉前後と大型化傾向にある。今後も中国国内の固形廃棄物の発生量は増加することが予想されており,当面は処理施設の需要は堅調に推移するものと考えられる(図1)。
また,中国政府は生活ごみ焼却汚染抑制標準の改訂版(GB18485-2014)を発行し,従来の焼却汚染抑制標準の規制対象であった生活ごみ以外に,水処理施設や設備などから発生する汚泥に対しても,その適用範囲を拡大させている。そのため,今後の中国国内の固形廃棄物処理施設においては,汚泥に対する適正処理に関する需要が増加するものと考えられる。
図1 中国国内における固形廃棄物処理施設の累積施設件数と累積施設規模の推移 出典:ACI International Solid Waste Management Summit2019
青島荏原環境設備有限公司(以下,EQC)は,荏原グループ会社として,1992年に中国青島市に設立した(図2)。現在,日本国内向けに,固形廃棄物処理施設用ボイラ,焼却炉などを製造するほか,2009年からは,荏原環境プラント株式会社(以下,EEP)との連携のもと,中国国内向けの固形廃棄物処理用の給じん装置,焼却炉等の焼却コア技術製品の設計,調達,製造及び当該設備の据付及び試運転の指導(EP+SV: Engineering Procurement+Super Visor)を行っている。
図2 青島荏原環境設備有限公司工場の外観写真
当グループの大型ストーカ式焼却システムは,幅方向に複数のユニットを組み合わせた構造を採用している。このため,顧客の固形廃棄物処理施設規模に応じて,ユニット数を増減させることで,適切な焼却能力を設定することができる。
各ユニット間の接合部には独自の熱膨張吸収機構を設けており,日本国内における最大ユニット数である3ランで構築された経験と知見に基づき,2007年に,荏原グループとして中国国内初となるHPCC®ストーカ式焼却システム(300 t/d・炉×2炉)を福建省厦門市(厦門東部一期)より受注した。また,その後,2011年には,1炉当たりの焼却処理能力が500 t/d・炉を超える福建省漳州市1)向けストーカ式焼却システム(525 t/d・炉×2炉)を受注した。
さらに,2013年には,当グループとして中国国内初となる4ランのストーカ式焼却システムを江西省南昌市2)向け(600 t/d・炉×2炉)に受注した。4ラン型ストーカ式焼却システムの内部構造図を次に示す(図3)。
また,2017年に受注した福建省厦門市向けストーカ式焼却システム(750 t/d・炉×2炉)は,4ランのストーカ式焼却システムにおいて1炉当たり最大の処理能力となっている(2020年竣工予定)。
近年では,中国国内の固形廃棄物処理施設の大型化傾向にともない,EQC受注の固形廃棄物処理施設規模も1炉当たりの焼却処理能力が600 t/d・炉以上の割合が12 %から29 %へと増加している(表1)。
その他,1炉当たりの焼却処理能力の大型化に伴い,焼却炉へごみを供給する給じん装置も大型化する必要があり,給じん装置もストーカ炉と同様に,幅方向に複数ユニットを組み合わせた構造を採用した。ユニット数の増加と中国特有のごみ質(嵩密度が高く,給じんするための推力が日本国内よりも必要なごみ質)の影響により,試運転当初,給じん装置の蛇行が発生したが,蛇行防止専用のガイド機構を設置することで,この問題を解決した。
図3 4ラン型ストーカ式焼却システムの内部構造図
受注年度 | 600 t/d・炉未満 | 600 t/d・炉以上 |
2009-2013 | 15炉(88 %) | 2炉(12 %) |
2014-2018 | 35炉(71 %) | 14炉(29 %) |
ストーカ式焼却システムの1炉当たりの焼却処理能力の増加に伴い,その燃焼安定性が非常に重要となってくる。EQCでは,EEP独自の自動燃焼制御(ACC:Automatic Combustion Control)を導入し,排ガス中の有害物質の規制値遵守はもちろんのこと,発電量に大きく影響を与える蒸発量の安定制御を図っている(図4)。
蒸発量の設定値に対し,変動幅±10 %以内の発生確率が99.9 %以上を達成できており,極めて良好な燃焼状態であることを示している。
また,4ランのストーカ式焼却炉の幅は約10 mであるが,全幅において均一な燃焼完結点を維持することができており,視覚的にも良好な燃焼状態であることが確認できる(図5)。
中国国内では固形廃棄物処理施設に対する評価制度(CJJT137-ごみ焼却プラント評価標準)として,ACCの導入が,最高評価のAAAと定められている。
しかしながら,中国国内の固形廃棄物処理施設では,中央制御室の監視員により手動介入で焼却炉が運転操作されている事例が多く,実際にACCを導入し,本格的に活用している事例は,まだまだ少ない。
EQCは,大型ストーカ式焼却システムにおけるACCの活用を通じて,燃焼の安定性とともに顧客満足度の向上を図っていく。
図4 4ラン型ストーカ式焼却システムおけるACC蒸発量制御
図5 4ラン型ストーカ式焼却炉内 の燃焼状況
中国国内の固形廃棄物のうち,一般廃棄物の発熱量は,日本国内の発熱量よりも低い。そこで,EQCは発熱量の低い,低質なごみを完全燃焼させるために,ACCというソフト面だけではなく,ストーカ式焼却炉本体のハード面で次の構造的な工夫3)を施している(図6)。
(1)
輻射熱の利用
ストーカ式焼却炉の後方内壁部(ノーズ部)を,内部に落とし込む構造とし,後方内壁部からの輻射熱を燃焼帯と後燃焼帯側へより伝熱しやすいようにしている。
(2)
撹拌性の向上
ストーカ式焼却炉内物の乾燥帯と燃焼I帯間及び燃焼II帯と後燃焼帯間に段差を設け,ごみの反転,撹拌性を向上させている。
(3)
滞留時間の十分な確保
ストーカ式焼却炉内部の乾燥帯から後燃焼帯までの長さを日本国内向けと比較して長く設計し,焼却炉内の滞留時間を十分に確保できるようにしている。
図6 中国低質ごみに対するストーカ式焼却システム構造の特長
EQCは焼却コア技術製品のEP+SVで中国国内を主体とした事業を行っているが,近年,EQC納入施設の運営フェーズにおける改造案件(S&S:Service and Support)も増加傾向にある。
特に,収集ごみの変化(厨芥ごみの減少,宅配便の増加による段ボール紙の増加等)によって,納入施設の建設時に想定していた発熱量と比較して,ごみ発熱量の高質化が進行している(基準質で6700~7500 kJ/kg)。このため,焼却炉内の温度上昇を抑制するために,ごみ処理量を低減せざるをえないという問題が発生している。
そこで,EQCは,ストーカ式焼却炉の内部に水冷壁と呼ばれる熱回収水管を追加設置し,伝熱面積を増加させる改造工事を実施した。これにより,熱回収蒸発量を大幅に増加させることができ,発電量も年間約18288000 kWh増加させることができた(表2)。
中国国内ではこのようなS&Sの事例はまだまだ一般的ではないが,EQCのEP+SVで培った設計能力とEEPの施設運営フェーズにおける延命化工事等の事例に基づき,課題解決型の提案をしていく。
さらに,中国国内では,生活ごみ焼却汚染抑制標準の改訂版(GB18485-2014)や危険廃棄物焼却排出汚染物抑制標準(GB18484-2001)に基づき,汚泥,危険廃棄物等の産業廃棄物の適正処理に関する指導が一層,厳しくなってきている。
これに伴い,中国国内の焼却処理対象需要は汚泥,危険廃棄物等を含めて,非常に多様化しつつある。
そこで,EQCは,荏原グループが保有する最適な焼却炉形式(機種)のひとつとして,TIF®流動床焼却炉システムを提案し,受注件数(炉数)を伸ばしている(表3)。
TIF®流動床焼却炉システム4)は,流動層の優れた伝熱特性による流動層内の温度の均一性によって,汚泥やスラッジ等の低発熱量処理物から,廃油や廃プラスチックなどの高発熱量処理物まで1つの炉で混焼処理可能であるという特長がある。今後も日本国内における知見,経験を活かして,中国国内に主軸をおいて,荏原グループが保有する最適な焼却炉形式(機種)を展開していく(図7)。
改造前 | 改造後 | |
発熱量(kJ/kg) | 5800(当初) | 7000(現状) |
蒸気量(t/h・炉) | 22.6 | 29.0 |
発電量(kWh/h) | 8071 | 10357 |
発電量(kWh/年) | 64568000 | 82856000 |
受注年度 | ストーカ | 流動床 |
2009-2014 | 100 %(17炉) | 0 %(0炉) |
2014-2018 | 88 %(43炉) | 12 %(6炉) |
図7 荏原グループが保有する焼却技術例 (HPCC<sup>®</sup>とTIF<sup>®</sup>の概略図)
EQCの固形廃棄物処理施設の納入地域は,当初,所在地である中国国内に限定化されていた。また,固形廃棄物の発生量が比較的多い沿岸都市部に集中していた。
しかしながら,近年では,顧客の固形廃棄物処理事業の地域拡大に応じて,中国国内内陸部の他,中国国外(シンガポール)へと納入地域を拡大している。
シンガポール向けの固形廃棄物処理施設は,施設規模は143 t/d・炉×4炉,処理対象は湿汚泥(発熱量:2900 kJ/kg)を主体とした産業廃棄物であり,炉形式はTIF®流動床焼却炉システムを採用した。今年度(2019年)の竣工が予定されており,その焼却特性や性能試験結果等については,別途,本誌にて報告する。
EQCは今後も固形廃棄物処理施設に対する市場の要求に応じた技術改良を更に重ね,固形廃棄物の安定処理,エネルギー回収等を通じて,中国国内のみならず,世界共通の課題である持続可能な社会の構築に向けて貢献していく所存である。
最後に,EQCの固形廃棄物処理施設の各プロジェクトにおいて多大なるご協力頂いた全ての関係者の方々に深く感謝する。
1) 黒澤,小林,田,王,単,中国向け大型ストーカ式焼却炉設備の納入・運転状況-福建省漳州市-,エバラ時報,No.250,p.76-83(2016-1).
2) 小林,黒澤,有原,他,中国向け大型ストーカ式焼却炉設備の納入・運転状況-江西省南昌市-,エバラ時報,No.251,p.32-38(2016-4).
3) 黒澤,作,佐藤,田,王,中国山東省威海市向け大型ストーカ式焼却炉設備の納入・運転状況,エバラ時報,No.235,p.23-28(2012-4).
4) 松岡,今泉,流動床焼却施設の性能とポテンシャル,エバラ時報,No.253,p.64-68(2017-4).
※HPCC及びTIFは,荏原環境プラント㈱の日本における登録商標です。
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